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大多喜町
大多喜町のサムネイル画像

及川 はるなさん

マネジャー兼トレーナー
大多喜町

3×3バスケで「町のヒーロー」に

千葉県大多喜町は房総半島南部の内陸部に位置し、人口はおよそ8000人。江戸時代初めに築城された大多喜城の城下町として栄え、さまざまな歴史的資産が残されているだけでなく、養老渓谷など豊かな自然にも恵まれている。


 この大多喜町に2021年、3人制バスケットボール3×3(スリーエックススリー)のプロチーム「esDGz OTAKI.EXE(エスディージーズ・オオタキエグゼ)」が設立された。エスディージーズ・オオタキエグゼは「大多喜町のヒーローになる」を理念に、3×3バスケで地域を盛り上げながら、後継者不足に悩む地域農業を再生する事業を展開している。現在、マネジャー兼トレーナーを務める及川はるなさんは東京・東久留米市出身で、チーム参加を機に大多喜町に移住した。チーム運営、選手のトレーニングに携わりながら、農作業や地域住民のスポーツ指導など多彩な活動に取り組んでいる。


 エスディージーズ・オオタキエグゼは、大多喜町に本社を置く企業「JPF agri」の傘下にある。同社の親会社・JPF社は競輪など公営競技のマネジメント業務を展開するが、「人と自然が共生する環境整備」「自治体連携による地域活性化」を事業テーマに掲げ、20年に大多喜町の農業再生を目的とするJPF agriを設立した。


 当初、JPF agriは大多喜町に移住して農業の担い手になってくれる人材を募ったものの、なかなか思うように集まらなかった。そこで、若者に人気のある3×3バスケットボールのチームを設立、プロリーグに参加しながら、農業の担い手として地域振興にも取り組む「デュアルキャリア」というコンセプトを打ち出した。すると、プレーヤーを選考するトライアウトにはおよそ60人が参加、初年度は6人が契約し、プロチームとして活動を始めた。

エスディージーズ・オオタキエグゼのメンバー

エスディージーズ・オオタキエグゼのメンバー

 及川さんは、この初代メンバーの一人とバスケを通じて親交があり、チームの裏方として勤めないかとのオファーがあった。中学・高校と自身もバスケ選手だったが、高校卒業後にスポーツトレーナーを養成する専門学校を経て、2年間、都内でマッサージの仕事をしていた。ただ、もともと「バスケットボールチームに携わる仕事をしたい」という夢もあって、大多喜町に移住し、エスディージーズ・オオタキエグゼのスタッフになることを決めたという。


 大多喜町の魅力は、まず自然が豊かなこと。首都圏の住宅地で育った及川さんにとって、大多喜町の風景は「昔の時代にタイムスリップしたみたい」だが、「満員電車での通勤が、とてもつらかった」だけに、今の生活を十分に楽しめている。


 及川さんは、エスディージーズ・オオタキエグゼの選手と同様にJPF agriの社員。業務はチームのサポートだけでなく、他のメンバーとともに農作業にも従事し、「籠米(かごめ)」というブランド米を生産している。農作業は大多喜町に来て初めて経験したが、「今は扱いが難しいエンジン付きの草刈り機も、うまく操れるようになりました」と笑う。

イベント会場でエスディージーズ・オオタキエグゼが生産した「籠米」を販売するスタッフ・オオタキエグゼメンバー

 及川さんを含め、エスディージーズ・オオタキエグゼのメンバーは、決してバスケの合間に農業をしているわけではない。JPF agri社はプロスポーツと農業の両立を「デュアルキャリア」と表現し、社員にはバスケと農業にはいずれも「本気」で取り組むことを求めている。


 プロスポーツの世界は競争が激しく、現役プレーヤーとして戦える期間は決して長くはない。野球やサッカーなどメジャーなプロスポーツの業界では、選手活動を終えた後のセカンドキャリア形成を重視するようになってきたが、JPF agri社は3×3バスケを通じて「農業×スポーツ」という新しい「デュアル・キャリアモデル」を創造しようとしている。

町のシンボルでもある大多喜城。

 及川さんの場合、「バスケ以外の仕事」として、農業だけでなくスポーツを通じた地域貢献事業にも携わっていて、特定非営利活動法人を設立に寄与や大多喜町の公営スポーツ施設の指定管理者を受託したほか、地方自治体が開催するスポーツイベントの運営などにも進出している。


 さらに、バスケ選手やトレーナーとしての経験を生かし、地域の小中学生を対象にしたバスケ教室、大人向けの体操教室の指導役も務める。エスディージーズ・オオタキエグゼの掲げる「大多喜町のヒーローになる」という理念が、農業やスポーツを通じた地域振興を目指していることは、及川さんが日々取り組む仕事の内容からも見えてくる。

エスディージーズ・オオタキエグゼによる小学生向けバスケットボール教室の様子

 大多喜町の人口は8000人と少ない一方、人と人との距離は都会よりも近くなる。「体操教室の参加者やバスケ教室に来る子供たちの親御さんなど、仕事を通じて次々と人のつながりができてくる」のを楽しんでいる及川さんだが、「私は運転免許を持っていないので、町内はもっぱら自転車で移動しています。この辺りでは、車を使わないと逆に目立つらしく、『いつも自転車に乗っているよね』って声を掛けられて、親しくなることもあります」と、地域にもすっかりなじんでいるようだ。

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