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勝浦市
勝浦市のサムネイル画像

梅原 慎吾さん

地域おこし協力隊
勝浦市

移住・定住促進と空き家活用に奮闘

 千葉県勝浦市は房総半島の太平洋側、いわゆる「外房」の南部に位置する。世帯数約7800、人口はおよそ1万6000人(2023年10月)で、市内に4つの海水浴場、13カ所の漁港がある「海のまち」としても知られるが、内陸には里山が広がる自然豊かな地域だ。


 勝浦市は、人口減少と急増する空き家という問題に直面している。梅原慎吾さん(35)は、2023年6月に旅行で立ち寄った勝浦が気に入り東京から移住、同年10月に市が募集していた地域おこし協力隊員に採用され、現在は移住・定住促進と空き家活用を担当している。


 梅原さんは長崎市出身で、東北大学卒業後、東京都庁に9年間務めた。都税事務所で固定資産税の賦課徴収に従事した経験があり、宅地建物取引士の資格も取得した。都庁から民間企業へ移った後、勝浦の魅力を知って移住を決めた。


 「生まれ育ちが長崎、しかも実家は海辺の旧香焼町(2005年に長崎市に編入)にあったので、勝浦が海のそばという環境がまず気に入りました。それ以上に、地元の方々が皆さんパワフルで、しかも親しみやすいところにひかれました」のが、移住を決めたきっかけだという。まず移住を決め、その後、仕事を探す中で、移住・定住と空き家対策を担当する地域おこし協力隊員の募集を知って手を挙げた。

多くの人でにぎわう勝浦朝市(勝浦市提供)

 勝浦市は人口減少が続き、移住・定住の促進が大きな課題だ。また、年々増える空き家問題にも頭を悩ませている。同市が2022~23年度に実施した実態調査によると、市内の空き家は、全世帯数の4分の1に相当する約2000軒に達することが分かった。このうち約1000軒は持ち主が判明したため、家屋の利用についてのアンケートを送付した。持ち主のほとんどは市外在住者で、約半数の500人から回答を得たが、最も多かったのは「どうしていいか分からない」という答えだった。

興津海水浴場。2つの岬にはさまれた場所にあるため波は静か。

 「勝浦はもともと別荘地だという事情もあり、家屋の中には世代交代であまり使われなくなった別荘なども含まれているようです。週末や海水浴シーズンには使うこともあるので、手放したり、賃貸に出したりということが難しい事情もあるとみています」と梅原さんは分析する。市が設けた「空き家バンク」の利用希望が少ないのも、持ち主が家屋の使い道に悩んでいることを裏付けている。


 そこで梅原さんは、市から貸与されて常に持ち歩いている携帯電話の番号を市のホームページで公開し、「空き家に関する何でも相談」の窓口役を引き受けた。アンケートで最も多かった「どうしていいか分からない」という声に応えるには、「まず話を聞いて、一緒に考える」のが最善の道だと考えたからだ。


 勝浦市は、空き家の有効利用を移住・定住の促進と結びつける構想を以前から進めてきた。ただ、梅原さんは元公務員で行政が何をできるかについて熟知しているだけに、行政の限界も感じている。特に、財政的に厳しい小規模市町村の場合、地域課題が明らかでも、そこに投入できる財源は限られている。

「Share AKIYA だいだい荘」の内部

 「そうなると民間の力を借りざるを得ません。勝浦の人たちはパワフルであると同時に、たいがいのことは気軽にやってくれる親しみやすさがあります。それを地域課題の解決に役立てるにはどうしたらいいか、知恵を絞っているところです」と梅原さんは語る。梅原さん自身、市内の空き家を借り、シェアオフィスやイベントスペースなどに使える「Share AKIYA(シェア空き家) だいだい荘」を運営している。その経験も踏まえ、移住希望者に複数の空き家を「シェア」して利用してもらう「お試し移住」プランの実現に取り組んでいるところだ。

梅原さん行きつけの渡辺精肉。勝浦には昔ながらの商店も残っていて、生活はしやすい

 「観測史上、気温が35度を超える猛暑日を一度も記録されていない涼しい街」として注目を集める勝浦市だが、一番の魅力はやはり「美しい海」にある。梅原さんが運営する「だいだい荘」は、興津海水浴場のそばにあり、その海岸から眺める水平線は、地球の丸みを感じられるほど雄大だ。


 梅原さんは、業務委託型の地域おこし協力隊員なので公務員ではない。ただし、協力隊としての業務は行政側に立つ「半官半民」のようなポジションにある。「勝手に『ひとり官民連携』と名乗って、行政と民間の立ち位置を行き来しながら地域の課題解決に取り組んでいます」と笑うが、その表情からは勝浦という土地とそこに住む人々への深い愛が感じられた。

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